「来月で終わり」の30日前を数える

21万9,130円。 同じ「来月で終わり」でも、この金額が出る場合と、1円も出ない場合があります。
21万9,130円。
同じ「来月で終わり」でも、この金額が出る場合と、1円も出ない場合があります。
分かれ目は、その終わり方が「解雇」なのか、「更新しないだけ」なのか。現場ではどちらも同じ一言で伝わってきますが、決まりの上では別のものとして扱われます。同じ日に、同じラインから抜ける二人でも、扱いが変わることがあります。
まず、21万9,130円がどこから出てきたか
会社が人を解雇するときは、30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金を払う。どちらかをする決まりです。
例外もあります。地震や火災で事業を続けられなくなった場合と、本人の側によほどの落ち度がある場合。ただしどちらも、労働基準監督署長の認定を受けたときだけです。会社が自分で「これは例外だ」と決められるものではありません。
ここで言う平均賃金は、月給の30分の1ではありません。直近3か月の賃金の総額を、その3か月の「暦の日数」で割ります。
時給1,400円、1日8時間、月20日で働いている人で並べます。
1,400円 × 8時間 = 11,200円(1日)
11,200円 × 20日 = 224,000円(1か月)
224,000円 × 3か月 = 672,000円
いま計算するなら、直近3か月は5月・6月・7月。暦の日数は 31+30+31 = 92日です。
672,000円 ÷ 92日 = 7,304円34銭(1日あたり)
7,304円34銭 × 30日 = 219,130円
これが「30日分の平均賃金」です。端数の扱いで数円は動きます。
予告と手当は、足して30日になればよい、という組み立てです。20日前に言われたなら、残りの10日分で7万3,043円。15日前なら15日分で10万9,565円。ちょうど30日前に言われていれば、手当は出ません。いつ言われたかが、そのまま金額に変わります。
自分の数字に置き換えるなら、(直近3か月の総支給の合計)÷(その3か月の暦の日数)× 30。総支給には残業代も深夜割増も通勤手当も入ります。入らないのは、賞与のように3か月を超える間隔で払われるものです。
働いた日数ではなく暦の日数で割るので、「月給の3か月分 ÷ 3」より小さい数字になります。31日の月が続けば、もっと小さくなる。ここを知っていると、提示された金額の桁が合っているかどうかの見当がつきます。
時給や日給で働く人には、もうひとつ計算があります。賃金の総額 ÷ 実際に働いた日数 × 60%。さっきの例なら、672,000円 ÷ 60日 = 11,200円、その60%で6,720円。この二つを比べて高いほうを平均賃金とする決まりです。この例では7,304円34銭のほうが高いので、そちらになります。休みが多くて稼ぎの薄い月が混じっているときは、60%のほうが効いてくることがあります。
この式は、このあと休業手当のときにも、労災のときにも、同じ形で出てきます。今週の後半の回でも使うので、ここに置いておきます。
では「更新しないだけ」のほうは
こちらは、契約の期間が満了して終わった、という扱いです。解雇ではないので、さきほどの30日分のお金は出ません。同じ「来月で終わり」なのに金額が変わるのは、ここが理由です。
ただし、何の決まりもないわけではありません。
契約を3回以上更新している人。または、雇い入れの日から1年を超えて働き続けている人。この人たちの契約を更新しないときは、契約が終わる日の30日前までに予告することになっています。はじめから更新しないと示されていた契約は、これに当たりません。
更新の回数は、契約のたびに書き直している契約書の枚数と、だいたい同じ数になります。1回目の契約は更新ではないので、3回目の更新まで来た人は、手元に4枚ある計算です。
線を引いているのは、更新の回数と、働いた長さです。3回目の更新を済ませた人と、まだ2回目の人とでは扱いが変わる。1年1か月の人と11か月の人でも変わる。ひと月違いで別の側に立つことが、実際に起きます。
ここからは引き算だけです
9月30日で終わりなら、30日前は8月31日。
10月31日で終わりなら、10月1日。
11月30日で終わりなら、10月31日。
終わる日から30を引く。それだけです。今日は8月22日。9月末で終わる契約の人は、8月31日まであと9日、という位置に立っています。
豊田とみよしの工場は、9月末と3月末で契約を切りそろえているところが多く、この時期は事務所の掲示板に更新の紙が回りはじめます。同じライン、同じ9月末終わりなのに、いつ聞かされたかが人によってばらばらだった、ということが起きます。3年目の人には7月のうちに話があって、去年入った人はまだ何も聞いていない。意地悪でそうなっているというより、更新の回数と勤続の長さで会社側のやることが変わるので、こういう時差が生まれます。
もうひとつ、10月をまたぐ更新には別の数字も関わります。愛知県の最低賃金はいま1,140円で、2026年10月1日から1,195円になる予定です。10月以降の期間が入る契約書は、時給の欄がそこを下回っていないかを見ておく場所になります。
理由を紙で受け取れる決まりもあります
更新されなかったとき、その理由の証明書がほしいと請求されたら、会社は遅れずに出さなければならない、と決まっています。期間が満了したから、で終わらせずに、何が理由だったのかを紙にする。これは請求してはじめて動く話なので、黙っていれば普通は出てきません。
紙で残ると、あとの手続きで効きます。口で聞いた話は、3か月も経つと自分の記憶のほうが曖昧になります。
派遣で働いている人へ、ひとつだけ
話をしてくるのは現場の人でも、労働契約を結んでいる相手は派遣会社です。派遣先の都合で今月いっぱい、と言われたことと、派遣会社との契約が何月何日までになっているかは、別の日付です。どちらの日付を見ているのかを取り違えると、話が噛み合わなくなります。この二重構造そのものは、明日の回で書きます。
はじめての更新を迎える人に、これって解雇なんですか、と聞かれて、その場で答えられなかった、ということもあります。答えが「その人の更新回数と勤続期間による」なので、聞かれたその場では出しにくい。困るのは答えられなかった側ではなくて、二種類あることがそもそも知られていない、という状態のほうです。
まとめると、決まりはこの三つ
- 解雇のとき:30日前の予告、または30日分以上の平均賃金(例外は、労働基準監督署長の認定を受けた場合だけ)
- 更新しないとき:3回以上更新している、または1年を超えて働いているなら、30日前までの予告
- 更新しない理由:請求されたら、会社は証明書を交付する
話を聞いてくれるところ(どちらも無料)
豊田労働基準監督署 0565-35-2323
平日8:30〜17:15。予告と平均賃金の決まりは、ここが所管です。
総合労働相談コーナー(愛知労働局)052-972-0266
平日9:30〜17:00。匿名でも相談できます。
更新の回数が、この先どこにつながっていくのかは、こちらに書きました。
b-staff.jp/guide/muki-tenkan →
有限会社ブリッジスタッフサービス(豊田市・1978年創業)/0565-34-0707 平日10:00〜17:00、LINEは24時間受付です。
読んでいる人の中に、いま同じカレンダーを見ている人がいます。
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