この記事の要点
- 病院では「仕事中のけがです」と言う。健康保険証を出すと、いったん全額を払うことになります
- 派遣で働く人の労災保険は、雇用主である派遣元の保険から給付されます
- 休業4日目から、給付基礎日額の80%(60%+20%)が支払われます
けがをした直後は、頭が回らないものです。まず覚えることは一つだけです。病院の窓口で「仕事中のけがです」と伝えることです。
労災保険は、労働者を使用する事業に適用されます(労災保険法3条1項)。パートでもアルバイトでも派遣でも同じです。入社初日でも対象です。会社が「使う」「使わない」を選べる制度ではありません。
そして給付は、あなた自身の請求で始まります(労災保険法12条の8第2項)。会社が動かなくても、請求はできます。以下、その順番を書きます。
病院で健康保険証を出すと、あとで全額を払うことになります
健康保険は、仕事や通勤と関係のないけがや病気のための制度です。同じけがについて労災保険から給付を受けられるときは、健康保険からの給付は行われません(健康保険法55条1項)。
厚生労働省のリーフレットも、はっきり書いています。仕事でのけがに健康保険を使うと、一時的に治療費の全額を自己負担することになります。労災保険なら、業務災害の治療費の自己負担はありません。
だから、受付で最初に伝えます。「労災です」の一言で通じます。
すでに健康保険を使ってしまったとき
慌てなくて大丈夫です。手順は決まっています。
- 1受診した病院に、労災保険へ切り替えられるかを聞きます。
- 2切り替えられる場合は、様式第5号(通勤災害は様式第16号の3)を病院に出します。窓口で払った額は返ってきます。
- 3切り替えられない場合は、健康保険の保険者(協会けんぽなど)に労災だと申し出ます。返還額を払い、様式第7号(通勤災害は様式第16号の5)で労働基準監督署に請求します。
3の手順では、レセプト(診療報酬明細書)の写しが必要になります。健康保険の保険者に頼んでおいてください。返還通知書が届くまでに2〜3か月かかることもあります。
全額をいったん払うのが難しいこともあります。すでに労災と認定されている場合には、監督署に申し出れば、全額を負担せずに請求する方法があります。ためらわずに電話してください。
派遣で働く人は、派遣先と派遣元の両方に伝えます
現場でけがをしたら、まず派遣先の責任者に伝えます。同時に、雇用主である派遣元にも連絡します。片方だけでは手続きが進みません。
労災保険の給付は、派遣元が加入している労災保険から出ます。労働者派遣事業では、労災保険も雇用保険も派遣元事業主の事業を適用事業とする、という取り扱いです(昭和61年6月30日 発労徴第41号・基発第383号)。
ただし、請求書には派遣先の欄があります。様式第5号の裏面には「派遣先事業主証明欄」があります。派遣元が証明する事項について、事実と相違ないことを派遣先が証明する欄です。
労働者死傷病報告も、派遣先と派遣元の両方が出します。報告する事業者が派遣先と派遣元のどちらに当たるかを書く欄があります(労働安全衛生規則97条1項7号)。どちらか一方で済む書類ではありません。
受け取れるのは、治療費と、休んだ日の補償です
| 給付 | 内容 | 使う様式(業務災害) |
|---|---|---|
| 療養補償給付 | 治療費。自己負担なし | 労災指定病院は様式第5号/それ以外は様式第7号 |
| 休業補償給付 | 休業4日目から給付基礎日額の60% | 様式第8号 |
| 休業特別支給金 | 同じ日について給付基礎日額の20% | 様式第8号(同じ用紙で申請) |
合わせて、1日あたり給付基礎日額の80%です。給付基礎日額は、原則として事故直前3か月の賃金総額を、その期間の暦日数で割った額です。
最初の3日間は労災保険から出ません(労災保険法14条1項)。業務災害の場合、この3日間は会社が平均賃金の60%を補償します(労働基準法76条1項)。通勤災害には、この会社の補償義務がありません。
通勤災害では、療養給付について原則200円の一部負担金があります。休業給付から差し引かれる形です(労災保険法施行規則44条の2)。通勤災害の休業給付は、様式第16号の6を使います。
けがのために自分で手続きができないときは、事業主に助力を求められます(労災保険法施行規則23条1項)。まず監督署か会社に電話してください。
「労災は使えない」と言われたときに知っておくこと
現場では、いろいろな言い方をされることがあります。制度がどうなっているかだけ、並べます。
- 「うちは労災を使っていない」:労災保険は、労働者を使用する事業に適用される制度です(労災保険法3条1項)。会社が選ぶものではありません。
- 「健康保険で行って」:労災保険から給付を受けられる場合、健康保険からの給付は行われません(健康保険法55条1項)。結果として、窓口で全額を払うことになります。
- 「証明はできない」:事業主は、証明を求められたらすみやかに証明しなければなりません(労災保険法施行規則23条2項)。断られたときは、その事情を監督署に伝えてください。会社側には、監督署に意見を申し出る手続きが別にあります(同23条の2)。
- 「4日未満だから報告しない」:休業が1日でも労働者死傷病報告は必要です。4日未満のものは四半期ごとにまとめ、その期間の最後の月の翌月末日までに報告します(労働安全衛生規則97条2項)。報告をしない、または虚偽の報告をした場合は、50万円以下の罰金の対象です(労働安全衛生法120条5号)。
- 「労災を使うなら、もう来なくていい」:業務上のけがで療養のため休業する期間と、その後30日間は解雇できません(労働基準法19条1項)。
労災かどうかを決めるのは会社ではありません。労働基準監督署が調査したうえで判断します。
期限は2年。でも、早いほうが楽です
療養補償給付、休業補償給付、葬祭料などの請求権は、行使できる時から2年で時効になります。障害補償給付と遺族補償給付は5年です(労災保険法42条1項)。
休業補償給付の2年は、賃金を受けない日ごとに数えます。放っておくと、古い日の分から順に消えていきます。
時間がたつほど、記憶も記録もあいまいになります。日付、時刻、場所、作業の内容、近くにいた人の名前を残してください。スマホのメモで十分です。
よくある質問
パートや派遣でも労災保険は使えますか?
使えます。労災保険は、労働者を使用する事業に適用されます(労災保険法3条1項)。雇用の形や勤務時間の長さは関係ありません。働き始めた初日のけがも対象です。厚生労働省の労災保険相談ダイヤルでも、この質問は代表的なものとして挙げられています。
会社が「労災にしない」と言っています。どうすればよいですか?
請求は、あなた自身でできます。用紙は厚生労働省のサイトから印刷できます。労働基準監督署の窓口でももらえます。事業主の証明が得られないときは、その事情を書き添えるか、窓口で伝えてください。書き方が分からないときは、監督署の労災担当か、労災保険相談ダイヤルで教えてもらえます。
通勤の途中で転んだ場合も労災ですか?
住居と就業の場所との間を、合理的な経路と方法で移動している間のけがは通勤災害になります(労災保険法7条2項1号)。ただし、経路を外れたり移動を中断したりした間は通勤に含まれません(同条3項)。日用品の買い物など、日常生活上必要な行為には例外があります。用紙は業務災害と別で、療養給付は様式第16号の3を使います。
相談できるところ
- 豊田労働基準監督署(豊田市・みよし市を管轄)/〒471-0867 豊田市常盤町3-25-2/労災 0565-30-7112/監督 0565-35-2323/安全衛生 0565-30-7111
- 労災保険相談ダイヤル(厚生労働省 労働基準局労災補償部)/0570-006031/月〜金 9時〜17時(土日祝・年末年始は休み)
- 豊田総合労働相談コーナー(豊田労働基準監督署内)/豊田市常盤町3-25-2/0565-30-7108/9時30分〜17時(土日祝・年末年始を除く)
- 愛知労働局/〒460-8507 名古屋市中区三の丸2-5-1(名古屋合同庁舎第2号館)
労災に当たるかどうかは、労働基準監督署が調べて判断します。迷ったら、請求の前に電話で聞いても構いません。けがの治療と補償は、別の話として進めて大丈夫です。
この記事は2026-08-20時点の法令にもとづいています。制度は変わります。 個別の事情については、記事内に挙げた公的な相談窓口にお問い合わせください。
