この記事の要点
- 派遣の待遇は「派遣先均等・均衡方式」か「労使協定方式」のどちらかで決まります
- 食堂・休憩室・更衣室は、方式に関係なく派遣先が利用させる義務を負います
- 自分の方式と待遇差の理由は、派遣元に説明を求められます(不利益な扱いは禁止)
「同じ仕事をしているのに、正社員だけ賞与が出る」。よく聞く話です。
2020年から、派遣で働く人にも待遇のルールができました。ただし、正社員と全部が同じになる制度ではありません。何が対象で、何が対象外か。線は決まっています。
派遣で働く人の待遇は、二つの方式のどちらかで決まります
どちらの方式を選ぶかは派遣元が決めます。
| 項目 | 派遣先均等・均衡方式 | 労使協定方式 |
|---|---|---|
| 根拠 | 派遣法30条の3 | 派遣法30条の4 |
| 賃金を比べる相手 | 派遣先の正社員 | 国が示す一般労働者の賃金水準 |
| 決め方 | 派遣先の待遇情報に合わせる | 派遣元と労働者代表が協定を結ぶ |
| 派遣先が変わると | 水準が変わりうる | 協定の水準は変わらない |
実際には労使協定方式がほとんどです。厚生労働省が2026年3月31日に公表した集計を見ます。2025年6月1日現在の派遣労働者は約201万人でした。うち協定対象、つまり労使協定方式の人が約190万人です。製造業務に従事した人は約43万人でした。豊田市周辺の工場で働く人の多くは、労使協定方式に当たります。
どちらの方式かは、派遣元に聞けば教えてもらえます
派遣元には説明義務があります。雇い入れようとするときは、講じる措置の内容を説明しなければなりません(派遣法31条の2第2項)。労使協定方式でない派遣のときは、派遣のたびにも説明が必要です(同条3項)。
あなたが求めたときにも説明義務があります。比較対象となる労働者との待遇の違いの内容と理由を説明しなければなりません(同条4項)。求めたことを理由に、解雇その他の不利益な取り扱いをしてはいけません(同条5項)。
聞くこと自体が権利です。「協定対象ですか」「協定書を見せてください」。この二つから始めてください。
労使協定方式でも、賃金には国が示す下限があります
労使協定方式は「派遣元が好きに決めてよい」制度ではありません。同種の業務に従事する一般労働者の平均的な賃金と同等以上でなければなりません(同法30条の4第1項2号イ)。
その金額は、毎年、厚生労働省の職業安定局長通達で示されます。2026年度分は2025年8月25日付で、2026年4月1日から2027年3月31日まで使われます。
計算式は決まっています。職種別の基準値 × 能力・経験調整指数 × 地域指数です。1円未満は切り上げます。
2026年度の全体の基準値は、賃金構造基本統計調査の産業計が1,442円、職業安定業務統計の職業計が1,289円です。いずれも勤続0年の時給換算です。
能力・経験調整指数は勤続年数の代わりです。0年を100.0として、1年113.8、3年124.8、10年142.7です。
地域指数は派遣就業場所の地域で決まります。2026年度の愛知県は104.4、豊田公共職業安定所の管轄は101.7です。都道府県とハローワークのどちらの指数を使うかは労使で決めますが、全国計の100.0を使うことは認められていません。
| 勤続年数の目安 | 職業計の値 | 豊田の指数101.7を掛けた額 |
|---|---|---|
| 0年 | 1,289円 | 1,311円 |
| 1年 | 1,467円 | 1,492円 |
| 3年 | 1,609円 | 1,637円 |
| 10年 | 1,839円 | 1,871円 |
なお、基準値(0年)が地域別最低賃金を下回る場合は、最低賃金の額を基準値にして計算し直します。
賞与と退職金は「同じ額」ではなく「合計で下限以上」で見ます
労使協定方式では、賞与を単独で比べません。基本給と賞与をまとめた「一般基本給・賞与等」の時給換算額で比べます。賞与がゼロでも、時給がその分高ければ、それだけで違反にはなりません。
退職金は三つの決め方から選びます。
- 1一般の労働者の退職手当制度と比べる方法。通達の別表を使います。
- 2一般基本給・賞与等の5%を退職金相当額として上乗せする方法。
- 3中小企業退職金共済制度などに、同じ5%以上の掛金で加入する方法。
通勤手当も同じ考え方です。実費を支給するか、1時間あたり79円以上を確保するかを選びます。
見るのは合計額です。時給、退職金の扱い、通勤手当の扱い。この三つを協定で確かめてください。
食堂・休憩室・更衣室は、方式に関係なく使えます
労使協定方式を選んでも、協定の対象から外れる待遇があります(同法30条の4第1項かっこ書き、同法施行規則25条の7)。
一つは福利厚生施設です。派遣先は、給食施設、休憩室、更衣室を、派遣労働者にも利用させなければなりません(同法40条3項、施行規則32条の3)。「配慮」ではなく義務です。
厚生労働省の指針も同じです。同じ事業所で働く派遣労働者には、派遣先の正社員と同一の給食施設、休憩室、更衣室の利用を認めなければならない、としています。労使協定方式の人も同じです。
もう一つは教育訓練です。派遣先の正社員と同じ業務をしている場合、その業務に必要な能力を付与する教育訓練は、派遣先も実施しなければなりません(同法40条2項)。派遣元からの求めに応じて行うもので、すでにその能力を持っている場合などは除かれます。なお、診療所などの施設は義務ではなく配慮の対象です(同法40条4項)。
慶弔休暇や病気休職は、比べる相手が方式で変わります
慶弔休暇、健康診断に伴う勤務免除、病気休職、夏季冬季休暇。これらは指針で明確に扱われています。ただし、比べる相手が方式で変わります。
| 待遇 | 派遣先均等・均衡方式 | 労使協定方式 |
|---|---|---|
| 慶弔休暇・夏季冬季休暇 | 派遣先の正社員と同一 | 派遣元の正社員と同一 |
| 健診に伴う勤務免除と有給保障 | 派遣先の正社員と同一 | 派遣元の正社員と同一 |
| 給食施設・休憩室・更衣室 | 派遣先の正社員と同一 | 派遣先の正社員と同一 |
病気休職は少し複雑です。有期契約でも、労働契約が終わるまでの期間を踏まえて取得を認めなければならないとされています。正社員に休職中の給与保障がある場合、契約更新を繰り返している人にも同じ保障が必要です。
納得できないときの窓口は三段階です
いきなり裁判ではありません。順番があります。
- 1苦情を申し出る。 派遣先は、苦情を受けたら派遣元に通知し、誠意をもって遅滞なく処理しなければなりません(同法40条1項)。派遣元にも自主的解決の努力義務があります(同法47条の5)。
- 2労働局に援助を求める。 都道府県労働局長は、必要な助言、指導、勧告ができます(同法47条の7第1項)。援助を求めたことを理由に不利益な取り扱いをすることは禁止されています(同条2項)。
- 3調停を申し込む。 労働局長が必要と認めれば、紛争調整委員会が調停を行います(同法47条の8)。
記録を残してください。いつ、誰に、何を聞き、何と答えられたか。メモがあると話が早く進みます。
よくある質問
正社員と同じ賞与をもらえますか?
労使協定方式では、賞与だけを取り出して比べません。基本給と賞与を合わせた時給換算額が、国の示す水準以上かどうかで判断します。派遣先均等・均衡方式なら、派遣先の正社員の賞与と比べます。方式によって見方が変わります。まず自分の方式を確認してください。
派遣先の社員食堂が使えません。おかしいですか?
給食施設は、派遣先が利用の機会を与えなければならない施設です(派遣法40条3項)。労使協定方式でも変わりません。まず派遣先責任者と派遣元に苦情として伝えてください。解決しない場合は、愛知労働局の需給調整事業第二課に相談できます。
労使協定を見せてほしいと言えますか?
言えます。労使協定を結んだ派遣元は、その協定を雇用する労働者に周知しなければなりません(派遣法30条の4第2項)。自分の職種、地域指数、退職金の扱い、通勤手当の扱い。この四つを見れば、自分の時給の下限が計算できます。
相談できるところ
- 愛知労働局 需給調整事業第二課(派遣事業の制度・運営に関する相談)/052-685-2555/名古屋市中区 広小路庁舎2階
- 豊田総合労働相談コーナー(豊田労働基準監督署内)/豊田市常盤町3-25-2/0565-30-7108/9時30分〜17時(土日祝・年末年始を除く)
- 総合労働相談コーナー(愛知労働局 雇用環境・均等部 指導課)/052-972-0266/名古屋市中区三の丸2-2-1(名古屋合同庁舎第1号館)
協定書と給与明細を手元に置いて相談してください。
この記事は2026-08-20時点の法令にもとづいています。制度は変わります。 個別の事情については、記事内に挙げた公的な相談窓口にお問い合わせください。
