この記事の要点
- 退職給付制度がある企業は74.9%。ない会社で働くのは珍しいことではありません
- 土台は公的年金です。ねんきん定期便で自分の見込額をまず確認します
- NISAはいつでも売れます。iDeCoは原則60歳まで出せない代わりに税が軽くなります
求人票の「退職金」の欄が「なし」だった。そのことが気になって、この記事を開いたかもしれません。
退職金は、法律で会社に義務づけられた制度ではありません。ないこと自体は違法ではありません。ただ、あるかないかで60代からのお金は変わります。だから、ないなら別の作り方を先に用意しておきます。
この記事は2026年8月現在の制度で書いています。むずかしい話は後にして、確認する順番から始めます。
退職金がない会社は、珍しくありません
厚生労働省の令和5年就労条件総合調査では、退職給付(一時金・年金)制度がある企業は74.9%でした。裏を返すと、24.8%の企業には制度がありません。およそ4社に1社です。
会社の規模でも差があります。1,000人以上では90.1%です。100〜299人では84.7%。30〜99人では70.1%まで下がります。産業別に見ると、製造業は85.6%です。
つまり、退職金がない働き方は特別ではありません。がんばりが足りなかった、という話でもありません。制度の話なので、制度で埋めます。
まず、公的年金の土台を確かめます
老後のお金の土台は公的年金です。会社員や派遣社員として厚生年金に入っていれば、老齢基礎年金と老齢厚生年金の両方を受け取れます。
老齢基礎年金の満額は、令和8年度で月70,608円です。昭和31年4月2日以後に生まれた人の場合です。昭和31年4月1日以前に生まれた人は月70,408円です。どちらも40年間(480か月)保険料を納めた場合の額です。
老齢厚生年金は、給料と加入期間で決まります。自分の見込額は「ねんきん定期便」に載っています。毎年、誕生月に届きます。
- 1ねんきん定期便を探します。見当たらなければ「ねんきんネット」で見られます
- 2「老齢年金の見込額」の欄を確認します
- 3見込額と、今の1か月の生活費を並べて書き出します
その差が、これから作る金額です。金額が見えると、次の判断が早くなります。
手取りから始める順番
いきなり投資の話にはしません。順番があります。
- 1急な出費に使える現金を普通預金に置きます。給料が止まっても数か月しのげる額です
- 2会社の制度を確認します。企業型確定拠出年金や財形貯蓄があるかもしれません。労働条件通知書と就業規則に書いてあります
- 3NISAを使います。いつでも売って現金にできます
- 4iDeCoを使います。原則60歳まで引き出せない代わりに、税が軽くなります
1と2を飛ばして4から始めると、生活が苦しくなったときに動けません。交替勤務で体調を崩す月もあります。手元の現金が先です。
NISAは「いつでも出せる」枠です
NISAは、投資で出た利益に税金がかからない制度です。2024年から今の形になりました。以前の「つみたてNISA」は、今の「つみたて投資枠」にあたります。
- つみたて投資枠は年120万円まで
- 成長投資枠は年240万円まで
- 生涯の上限は1,800万円(うち成長投資枠は1,200万円まで)
- 非課税で持てる期間は無期限。口座を開ける期間も恒久化されています
- 使えるのは、その年の1月1日時点で18歳以上の人
売った分の枠は、翌年以降にまた使えます。急にお金が必要になったら売れます。ここがiDeCoとの一番の違いです。
iDeCoは「税が軽くなる」枠です
iDeCoは、自分で掛金を出して自分で運用する年金です。掛金は全額が所得控除になります。掛金は月5,000円から、1,000円単位で決められます。
会社員の上限は、勤め先に企業年金があるかどうかで変わります。
| 立場 | 掛金の上限(月額) |
|---|---|
| 会社員(企業年金なし) | 2.3万円 |
| 会社員・公務員(企業年金あり) | 2.0万円 |
| 自営業・フリーランス | 6.8万円(国民年金基金等と合計) |
| 会社員に扶養されている配偶者 | 2.3万円 |
所得税は、課税される所得が194万9千円までなら5%です。住民税の所得割は標準税率で10%です。合わせて15%として計算すると、年27.6万円を掛けた場合に約4.1万円が軽くなります。
かかるお金もあります。加入時に2,829円、掛金を出すたびに105円です。これに金融機関ごとの手数料が加わります。
受け取れる時期には条件があります
iDeCoは「60歳まで引き出せない」と説明されます。もう少し正確に言うと、60歳から受け取るには通算加入者等期間が10年以上必要です。
期間が10年に満たないと、受け取り始める年齢が後ろにずれます。
| 通算加入者等期間 | 受け取りを始められる年齢 |
|---|---|
| 10年以上 | 60歳 |
| 8年以上10年未満 | 61歳 |
| 6年以上8年未満 | 62歳 |
| 4年以上6年未満 | 63歳 |
| 2年以上4年未満 | 64歳 |
| 1か月以上2年未満 | 65歳 |
受け取りを始める時期は、75歳になるまでの間で選べます。50代で始める場合は、この表を先に見ておきます。
受け取るときは、一時金なら退職所得控除が使えます。控除額は加入年数20年までが1年あたり40万円です。ただし80万円に満たない場合は80万円になります。20年を超えた分は1年あたり70万円です。退職金がない人は、この枠をiDeCoの受け取りだけに使えます。
小規模企業共済は、会社員には使えません
小規模企業共済は「退職金がない人向け」としてよく紹介されます。掛金は月1,000円から7万円まで、500円単位です。全額が所得控除になります。
ただし、加入できるのは個人事業主、共同経営者、小規模な会社の役員です。従業員数の上限もあります。建設業・製造業・運輸業などは20人以下、商業やサービス業は5人以下です。
会社に雇われている給与所得者は加入できません。 工場で雇われて働いている間は、この制度は使えません。将来ひとりで仕事を始めたときの選択肢として、名前だけ覚えておきます。
「退職金がない人向け」と書かれた制度でも、雇われている人は対象外のことがあります。加入資格の欄を先に読みます。
3つの制度をくらべます
| NISA(つみたて投資枠) | iDeCo | 小規模企業共済 | |
|---|---|---|---|
| 使える人 | 18歳以上 | 国民年金の被保険者 | 個人事業主・共同経営者・小規模企業の役員 |
| 上限 | 年120万円 | 会社員は月2.0万〜2.3万円 | 月1,000〜7万円 |
| 掛けたときの税 | 軽くならない | 全額が所得控除 | 全額が所得控除 |
| 途中で出せるか | いつでも売れる | 原則60歳まで出せない | 原則は廃業や退任のとき |
| 受け取るときの税 | 利益に課税されない | 退職所得控除・公的年金等控除 | 退職所得・雑所得の扱い |
よくある質問
退職金がないのは違法ですか?
違法ではありません。退職金は法律で義務づけられた制度ではありません。ただし会社に退職手当の定めがあれば、その内容を明示する義務があります(労働基準法施行規則5条1項4号の2)。対象になる労働者の範囲、金額の決め方、計算と支払の方法、支払の時期が明示の対象です。自分の会社に定めがあるかは、就業規則で確認できます。
NISAとiDeCo、どちらを先に始めますか?
どちらが正解かは、その人の家計によって変わります。判断のもとになる違いは「引き出せるかどうか」の一点です。NISAはいつでも売れます。iDeCoは原則60歳まで出せません。手元の現金が薄いうちは引き出せる側から始める、という考え方があります。逆に、現金に余裕があって税を軽くしたいならiDeCoが効きます。
途中で掛金を払えなくなったらどうなりますか?
iDeCoの掛金額は、1年に1回だけ変更できます。この1年は12月分から翌年11月分までの期間です。掛金の拠出をやめて運用だけを続けることもできます。ただしやめた後も、口座の管理手数料はかかり続けます。NISAの積立は、いつでも止められます。止めても、それまでに買った分の非課税は続きます。
相談できるところ
豊田年金事務所 — 〒471-8602 豊田市神明町3-33-2、電話0565-33-1123。年金の見込額や加入記録を確認できます。
ねんきんダイヤル — 0570-05-1165。050で始まる電話からは03-6700-1165。月曜は8時30分〜19時、火曜〜金曜は8時30分〜17時15分、第2土曜は9時30分〜16時です。
豊田税務署 — 〒471-8521 豊田市常盤町一丁目105番地3 豊田合同庁舎、電話0565-35-7777(代表)。所得控除や確定申告の相談先です。
金融庁 金融サービス利用者相談室 — 0570-016811(IP電話は03-5251-6811)、平日10時〜17時。投資商品や金融機関への疑問を受け付けています。
消費者ホットライン — 電話188。もうけ話の勧誘に不安を感じたときに、近くの消費生活センターへつないでくれます。
この記事は2026-08-20時点の法令にもとづいています。制度は変わります。 個別の事情については、記事内に挙げた公的な相談窓口にお問い合わせください。
